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不動産事件(11)地方の不動産紛争~所有権と用益権・入会権

2016.04.05更新

東京都豊島区の池袋エリアの法律事務所で

主に城北エリアを中心に弁護士の活動をしております、野澤吉太郎です。

私は地方の不動産紛争に何件か関与したことがありますが、

その過程で慣習上の権利の存在に直面しかけて、

非常に考えさせられたことがありましたので、概要を書きます。

 

1 土地所有権侵害


 

 

依頼者が所有する山林の中に、付近の住民が、

野草の採取のために立ち入っている、

という相談を受けたことがあります。

大学で現代の法律を学び、

その後に東京で弁護士業を何年も営んでいると、

付近住民によるそれらの行為は、土地所有権の侵害だろう、

と即断し、疑わなくなります。

当然、立ち入り禁止の看板を出そう、簡単でも良いから柵を作ろう、

侵入者には警告しよう、というアドバイスの流れになります。

 

付近住民が言いそうな主張内容はある程度想像がつきます。

たとえば、その山林の所有者はよそ者(地元と縁のない業者)だろう、

私たちの先祖が地元に根ざして土地を開拓してきたのだから、

私たちにも権利がある。というものだろうと思います。

民法の思考回路に慣れ、都会的発想にも染まった人間からみると、

所有権を否定するとんでもない論拠だ、

まったくルールを理解していない、という考えに陥ります。

 

2 慣習上の権利


 

 

しかし、その後に一見関係のない分野も含め、

いろいろなところから見聞を深めるにつれ、

私のアドバイスが少し安直だったことが分かってきました。

 

たとえば、入会権という権利があります。

入会権の定義は学者の先生方によって様々ですが、

典型例としてあげられるのは、一定地域の住民らが、

一定の山林原野で草木などを共同して採取する、というものです。

村落共同体に基礎を置く権利であり、

その対象は、山林、原野、河川、温泉、漁場など、

広範囲に及びうるものです。

 

民法上の条文は、2箇条しかありません。

・共有の性質を有する入会権については、

各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する(263条)。

・共有の性質を有しない入会権については、

各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する(294条)。

 

明治時代に地租改正を断行し、近代的所有権制度を確立するにあたり、

土地を官有地・私有地に分けることになりましたが、

特定の土地を、半ば強引に官有地に編入する際に、

付近住民の権利が完全に消滅することなく、

残存したものがあるようです。

明治時代の民法制定の際にも、

各種各様の権利を

条文で一律に規制することは不可能と考えられたため、

慣習にしたがう、という内容の条文しか

設けられなかった経緯のようです。

今後の民法改正でも

この条文を変更するとの話は出ていないようです。

 

かつて官有地、地方公共団体の所有であった土地については、

入会権が残存している可能性が高く、

現在においても、取得しようとする不動産業者は

細心の注意を払って調べる必要があります。

入会権は登記されているとは限らないところが厄介なところです。

 

バブル期の土地開発においては、開発を進めようとする業者に対し、

隣地住民が入会権を主張し、徹底的に抵抗する紛争があったようです。

徳川時代に形成された慣習にさかのぼって

調査をしなければならないため、

主張、立証に相当の長期間を要し、紛争が解決したときには、

開発の意味が乏しくなっていた、などという話も聞いたことがあります。

 

3 地方の不動産紛争の難しさ


 

 

私は、間違ったアドバイスをしていたわけではないのですが、

付近住民が本当に無権利なのかどうかを疑わなかったことに、

多少の問題がありました。

付近住民がその土地について昔から慣習的な権利を有しており、

現在の住民も、その慣習的な権利を承継している可能性があります。

昔からある土地の所有権を過去にさかのぼっていくと、

地租改正の時代にさかのぼります。

このような土地において、

慣習的な権利の不存在を証明することは非常に困難です。

 

入会権については、民法学者の中にも、

多大な研究業績を残されている方が何人かいらっしゃいます。

近代的所有権を出発点に考える民法の考え方からすると、

非常に理解しづらい領域です。

社会学的な分野に関心をお持ちの学者からすれば、

これ以上面白い分野はないのかもしれません。

地方の不動産紛争については、

近代的な土地所有権を鵜呑みにできない側面があります。

 

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