企業法務/会社法務(13)譲渡制限株式の評価
2016.01.14更新
東京都豊島区の池袋エリアの法律事務所で
主に城北エリアを中心に弁護士の活動をしております、野澤吉太郎です。
今回は、譲渡制限株式の価値の算定について
所感を書きたいと思います。
1 目的による区分
企業価値評価は、評価の目的によって評価方法が変わります。
譲渡制限株式の価値の評価は難しいところです。
課税目的の場合は、主に財産評価基本通達が用いられますが、
取引目的・裁判目的の場合などには、
日本公認会計士協会が策定した企業価値評価ガイドラインが用いられ、
具体的には、
インカム・アプローチ(DCF方式、配当還元方式、収益還元方式)
ネットアセット・アプローチ(簿価純資産方式、修正簿価純資産方式)
マーケット・アプローチ(類似上場会社方式、取引先例価格方式)
などの全部または一部を検討して決せられます。
2 評価の困難性
言うと簡単なようですが、説得的な評価をする、
ということは、非常に難しいことです。
弁護士として株式売買価格決定事件などを観察していると、
裁判所の鑑定への依存度が非常に高いことを感じます。
弁護士もトレンド(DCF方式など)を踏まえて議論しています。
しかし、実際にコンサルティングなどに関与してみると、
上記の処理がいかに表面的なものかを痛感します。
現場から上がってくる数字が本当にそれで正しいのか、
社内においても、正確に把握することは容易ではありません。
社内の管理会計においてすらも、
出てきた数値と肌感覚とが一致しない場合は多いと思われます。
社外(裁判所)からこれこれの理由で、この価格にすべし、
と決定される場合に、会社側がその結果が説得的である
と実感することは、あまり多くないのではないかと思います。
3 会社のリスクを下げるためには
裁判目的評価を避けることを優先したほうがよい
少数株主は投下資本の回収を迫られることがあります。
会社の規模が大きい場合には、それなりの経済的利益が生じるため、
株主側の弁護士が強硬策に誘導するケースも多いと思います。
会社にとっては、株価がいくらと算定されるか
全く分からないということは、大きなリスクです。
株式売買価格決定事件などで
株式会社が買取代金供託をしなければならない場合には、
それ自体が寝た資金になります。
資金が寝ていることは
リスクとはいいませんが(確実にマイナスだから。)、
解決時期はリスクです。
一概に言うべきことではありませんが、
多くの場合、会社側が、
むしろ株式譲渡を承認してしまう方向で考えてしまうほうが、
リスクの管理の観点からは好ましいと思います。
会社が譲渡を承認する場合、
株主は売買価格決定事件の申立をすることができなくなり、
会社は裁判目的評価を避けることができます。
次にどういう株主が現れるか分からないというのはリスクですが、
弁護士に委任して申立てをしてくる株主は、
会社とのすでに親密な仲ではないことが多く、
会社にとっては、新たな株主が現れたところで、
状況は大して変わらないように感じます。
強制的な換価が容易でないと悟れば、
次の株主候補者も消えていくこともあります。
このように会社が開き直る場合には、
株主も次の手を見いだしにくくなります。
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